image
The Japanese Society for Experimental Mechanics
日本実験力学会
 ホーム  > 顕彰について  > 学会賞について  > 2020年度学会賞表彰選考結果報告
2020年度日本実験力学会学会賞表彰 選考結果報告

2020年度日本実験力学会学会賞受賞者が選考委員会において決定しました.2020年度総会(2020年9月5日,WEBにて開催)において発表を行い,受賞者には表彰状と記念のメダルを送付いたしました.

(敬称略)
特別賞 (功績賞) 1件

格内 敏(兵庫県立大学名誉教授)

授賞理由:格内敏氏は光計測技術を用いた実験力学分野の研究において顕著な業績を有している.特に,ホログラフィ干渉法による人工股関節部の変形解析,TVホログラフィ干渉法によるめっき膜の内部応力のその場測定法,めがね・コンタクトレンズの力学的解析に基づく「見え方の質」の向上など,新たな計測法の開発と独創的な研究推進により,多くの有益な研究成果を国内外で公表してきた.
一方,受賞者は2004年度より評議員となり,2008年度からは理事として会員増強,編集,顕彰,副会長,会長,監事と永く本会の発展に寄与するとともに,10周年記念事業では「よくわかる実験技術・学術用語 第2版」の編集委員,2014年度には年次講演会の実行委員長を務めた.
以上のように,格内敏氏は,光による全視野計測技術を駆使した実験力学分野の学術・技術の進歩および学会の企画・運営に貢献するところが極めて大きく,特別賞(功績賞)に値する.
論文賞 2件

小野 勇一(鳥取大学),野村 武弘((株)IHI)

受賞論文:ニッケル合金薄膜を利用した高温繰返し応力測定法に関する基礎的研究,実験力学,第18巻3号(2018),176頁〜183頁.
授賞理由:著者らは,これまでに銅薄膜とニッケル薄膜に対して,繰返し負荷により発生する成長粒子の密度と結晶方位に着目した応力測定法に関する研究を進めており,国内外で多くの学術論文を発表している.本論文では,金属薄膜を用いた応力測定法の適用範囲を拡大するために,ニッケルに添加剤(リン,ボロン)を加え,これまで不可能であった350〜400℃の高温環境下における応力測定の可能性を明らかにしている.さらに,加熱による粒成長の基礎式に基づいて応力測定を行うための構成式についても提案している.研究の推進にも,結晶学の専門家と企業の研究者を交えており,今後の研究展開も十分期待できるといえる.このような一連の研究は,世界的にも独創的な研究であり,論文賞に値する.

Yohei KANAI, Shuichi ARIKAWA, Yuelin ZHANG, Satoru YONEYAMA, Yasuhisa FUJIMOTO
金居洋平(青山学院大学大学院),有川秀一(明治大学),張 月琳(青山学院大学),米山 聡(青山学院大学),藤本慶久(三菱電機(株))

受賞論文:Inverse Analysis of the Coefficient of Thermal Expansion of Dissimilar Materials Using the Virtual Fields Method, Advanced Experimental Mechanics, Vol.4(2019), pp.103-108.
授賞理由:電子部品の小型化および複雑化が進み,材料強度学が進歩した現在でも熱変形による電子部品の破損を原因とした各種電子機器の故障が起きている.この原因の一つとして,小型複雑化した部品を構成する材料の線膨張係数がバルクの状態と異なることで,熱ひずみが数値解析等で予測した値と異なることが挙げられる.したがって,複数の材料からなる電子部品の線膨張係数を同定することが重要である.この論文では,熱負荷による変形を画像相関法により測定し,その値を入力とすることで複数の材料の線膨張係数を同時に同定する方法を新たに提案している.この方法は,仮想仕事の原理を基にしたバーチャルフィールド法の拡張である.この方法により,複数の材料が用いられた複雑な電子部品においても線膨張係数の同定が可能となり,熱変形の予測が従来よりも高精度に行うことが期待できる.以上のように,この論文の成果は学術だけではなく工業分野においても重要であり,論文賞に値する.
技術賞 2件

内藤 匠海(富山県立大学),寺島 修(富山県立大学)

受賞研究:磁気応答性材料を用いた能動型振動低減装置による機械製品の振動騒音低減,日本実験力学会2019年度年次講演会講演論文集,No. 19 (2019),講演番号A304.
授賞理由:本研究は,特性可変材料として知られている磁気応答性材料を用いた機械製品の振動低減装置に関するものである.磁気応答性材料を用いた振動低減装置は従来から提案されていたが,その重量が大きく実際の機械製品への適用が難しいこと,磁気応答性材料の特性の調整が難しく装置の設計が難しいこと,振動低減を自動制御で行うためのロジックが確立されていないこと,の3つの課題があった.これらの課題に対し,軽量な装置の設計・製作,磁気応答性材料の特性調整方法の確立,自動制御のためのロジックの提案を行った.これらの成果は,日本実験力学会2019年度年次講演会で発表するとともに,装置の構造について2019年8月に特許を出願した.このように本技術は今後の発展も見込まれ,技術賞に値する.

四辻 淳一(JFEスチール(株))

受賞研究:残留ショット粒除去装置設計における磁場シミュレーションの活用,実験力学,第18巻4号(2018),283頁〜290頁.
授賞理由:鋼材の表面処理として施されるショットプロセスは重要なラインの一つであるが,ショット後のショット粒が鋼材の表面に吸着し残留することがある.その監視および除去作業のためラインを一時停止させる必要が生じると,製造効率を下げる大きな要因となる.本技術はこの残留ショット粒除去作業を自動的に行うための装置検討に関するものである.残留する要因となる残留磁場の分析と,残留ショット粒の挙動分析について,磁場シミュレーションを用いて考察している.また,除去するための装置として永久磁石を適用することを提案しており,除去効率の高い設計のための指針をやはりシミュレーションにて提示しており,価値のある研究開発と認められる.ラボ実験を行うことでその効果も確認しており,実現性の評価を実施している点も技術的価値を高めている.永久磁石による装置の簡易化,シミュレーションによる検討効率化など柔軟性も高く,技術賞に値する.
奨励賞 3件

石井 慶子(青山学院大学)

受賞研究:Temperature Sensitive Paintを用いた自励振動型ヒートパイプ内の温度場計測,実験力学,第18巻3号(2018),163頁〜168頁.
授賞理由:受賞者は,光学的可視化手法を用いて種々の計測を行っている.ヒートパイプ内部の温度分布はほとんどわかっておらず,気液の通過に伴う温度変動を初めて計測可能とし,ヒートパイプ研究の基礎に貢献した.そのほかにも,黒色不透明で流れ場の計測が困難であった磁性流体について,これを内包した蛍光マイクロカプセルの粒子パターンを撮影することで,流れ場の可視化にも成功し,熱伝達特性の解明に貢献している.また,応力発光体の新規的計測法開発にも従事し,応力発光による定量計測の基礎を明らかにした.可視化手法を軸とし,特定の分野だけでなく学際的に研究を進めてきたといえる.これは新しい計測法を推進し,あらゆる力学現象の解明を想定しつつその対象領域を広範に求める実験力学会の設立趣旨にも沿ったものであり,今後実験力学会での活動を通じてより多くの研究者と交流し,分野の拡大に貢献できる可能性があり,奨励賞に値する.

堺 香澄(青山学院大学大学院)

受賞研究:瞬き時の目元ひずみ分布評価における瞬き抽出方法,日本実験力学会2019年度年次講演会講演論文集,No.19(2019),講演番号A210.
授賞理由:皮膚状態の違いによる皮膚の挙動を明らかにするためには,皮膚のひずみを測定する技術の確立が必要になる.従来,画像相関法を用いて皮膚のひずみ測定を行う際にはボディペイント用塗料によるランダムパターンを塗布していたが,化粧品塗布による皮膚挙動を調べることを目的とした場合,ランダムパターン塗布が皮膚挙動に影響してしまうことが考えられる.また,瞬き時のまつ毛が画像に映り込むことによる影響や,変形が大きいことにより画像が大きく変化することの影響により,ひずみ測定には困難が生じていた.受賞者はこれらの問題を解決し,顔面皮膚の局所部分のひずみ分布のみならず時間変動を評価することを可能とした.さらに,複数の被験者の種々の皮膚状態(洗顔後,スキンケア後,ファンデーション塗布後など)にこの方法を適用し,皮膚状態の違いにより違和感や肌状態が評価できる可能性を示した.これらの成果は,皮膚のひずみ測定という実験力学に関する分野だけではなく,その応用とした化粧品開発などの分野に大きく貢献でき,奨励賞に値する.

伊藤 大世(富山県立大学大学院)

受賞研究:Experimental Study on the Vibration of Membranes and Generated Sound of Snare Drums with Extended Proper Orthogonal Decomposition (Technical Note), Advanced Experimental Mechanics, Vol.4(2019), pp.205-211.
授賞理由:本研究は,これまで定量的・客観的評価が難しかった楽器の演奏音の評価技術の確立とそれを用いた楽器の発音特性の解明に関するものである.受賞者は上記の目的の達成に向け,従来から提唱されていた固有直交展開法をベースにしたモード解析手法を新たに考案・提案し,その妥当性・有効性の検証を行った後,ドラムの打撃特性の差異による演奏音の変化やその発生メカニズムについて考察し,その結果を実験力学に関する国際会議にて発表した.また,その成果をまとめ,実験力学に関する学術誌にテクニカルノートとして掲載された.さらに,自身の研究成果を弦楽器の演奏音の評価に関する研究にも活用し,そこで得られた知見を基に新たな弦楽器が開発(設計・製作)された.その後,楽器店にて販売が開始され,既に数台の販売実績が得られている.このように,受賞者は実験力学を活用した新たな研究分野を開拓し,今後の発展も見込まれ,奨励賞に値する.

▲ページ先頭へ


ホームサイトマップお問い合わせ・連絡先
Last Updated Sep. 6, 2020